野田俊作の補正項 |
抄読会で「上位相補性」ということを勉強している。たとえば、この対話では、洋服は妻が決めて、決める人を夫が決めている。この夫の位置を「上位相補性」という。このような対話を見ると、アドレリアンは「横の関係」だと言う。しかし、コミュニケーション論者は、「決める人を決める人」である夫が圧倒的に上にいると思う。
- 妻:今朝は何を着ていこうかしら? ねえ、この服は似合う?
- 夫:それもいいけれど、他にアイデアはある?
- 妻:こっちのもいいかなと思うんだけど。
- 夫:私の意見を言ってもいい?
- 妻:ええ、どうぞ。
- 夫:後の方が私は好きなんだけど、でも、あなたの好きなほうにすればいいよ。
そんな話をすると、抄読会のメンバーがびっくりしてしまった。上位相補性というのは、極端に支配的な位置だからだ。しかし、「対称的」な関係でないときには、上位相補的な関係でしか、「横の関係」は作れない。対称的というのは、お互いに相手の行動を変えようとしないようなコミュニケーションだ。「こんにちは」「こんにちは、いいお天気ですね」「ほんとうにね」というような対話だ。一方、相補的というのは、相手の行動を変えることを目的にした会話で、その場合に、アドラー心理学が言う「縦の関係」になりやすい。そこから抜け出すためには、相手に一切関心を失って対称的になるか、相手に決めさせるという形で上位相補的になるかしかない。
お姫さまと騎士を考えてみる。騎士はいつも「姫がお決めになればいいのです。私は仰せに従います」と言う。姫が決めたことが気に入れば、騎士は「承知いたしました」と言う。姫が決めたことが気に入らないと、騎士は「他にお考えはありませんか?」と尋ねる。姫が他によいアイデアを言えばそちらを支持する。姫が他のアイデアを言わなくて、しかも騎士がいいアイデアをもっておれば、騎士は「私の考えをお聞きになりますか?」と言う。姫が「聞く」と言えば、騎士はアイデアを言うし、姫が「聞かない」と言えば、騎士は「仰せに従います」と言う。騎士にもいいアイデアがなければ、騎士はちょっとイヤそうに、「仰せに従います」と言う。もし姫のアイデアが騎士にとって迷惑なら、「結構なお考えですが、私はこの点で困るかもしれません」と言う。それで姫が別の、騎士に迷惑のかからないアイデアを出せば、「結構でございます」と言うし、他にアイデアがない場合にも、「結構でございます」と言う。最後の場合がリスキーだが、姫は騎士に迷惑がかからないように注意するだろう。
騎士がお姫さまを尊敬しておれば、これはそんなに難しいゲームではないのだが、嫌っている場合に難しくなる。そういう場合にも、「尊敬」だの「横の関係」だのと言わないで、「上位相補性」だと思うと、案外できるのだ。だって、上位相補性は、心理療法家が患者に対してとるポジションだと、ヘイリーは指摘しているんだもの。あ、別に治療者が患者を尊敬していないとか、嫌っているとか、そういう意味ではないんですよ。