野田俊作の補正項
             


幸福な人を育てる(4)

2013年11月14日(木)


本日の読書
 今日は休日で(今週は休日が多い)、例によってチベット語の勉強と、瞑想と、読書に使った。あ、ホームページの更新など、若干の仕事はしたな。

 子どもの勉強の話の続きをするが、勉強したがっていない子どもに勉強させる方法を考えてもしょうがない。心は勉強したくないのに、それでも体に勉強させようとするなら、賞を使うか罰を使うしか方法はない。そうではなくて、勉強したい心になってもらいたいわけだ。それを「勇気づけ」という。英語では encourage the child to study という使い方をするが、それは「いやな気持ちを乗り越えて勉強させる」という意味ではなくて、「楽しく勉強できる工夫を一緒にする」という意味だ。つまり、子どもが勉強したい心になるように勇気づけるわけだ。

 どうすれば勉強したい心になるかというと、なにはともあれ、勉強の前に不快な気持ちにさせないことだ。叱ったりして、子どもを不快にさせて無理に勉強させるのは、マズい方法だ。そんなことをしたら、身体は勉強するかもしれないが、心はますます勉強から離れてしまう。だいいち、「まわりの人を幸福にすれば、自分も幸福になれる」という原理を教えようとしているのに、親が満足を得ようとして子どもを不幸にしたのでは、やることがまったく矛盾している。(アドラー心理学を勉強している人は、罰の悪い副作用を、すくなくとも4つあげてください)。

 勉強を始める時点で子どもが不快な気持ちでないことも大切だが、勉強中も快適であることが必要だ。もしそばで勉強を見ているなら、間違ったところで陰性感情を使うよりも、正しく解けたところで喜ぶのがいい。私はよく「すばらしい!」と言うのだが、ある人に、「それは賞ではないのですか?」と質問された。子どもが問題を解けたことを本心で喜んでいて、それを子どもに伝えているのだから、賞ではない。賞というのは、子どもをいい気分にさせることを目的にして声をかけたり物を与えたりすることだが、私が「すばらしい!」と言うのは、ほんとうに素晴らしいと思っているから言うので、私の喜びを子どもに伝えているだけだ。そうすると子どもも喜ぶかもしれなくて、そうなればともに喜び合うことになる。人間はこれがいちばん好きだ。これについて、ときどき、行動療法家の久能能弘先生が重度心身障害児と「おにぎりせんべい」を分けて食べた話をする。聞いたことがない人は、講演会にでも来て質問してください。長い話なのでここには書けない。

 勉強を始める前も、勉強をしている最中も、快適であるのがいいが、勉強が終わった時点ではもっと快適になっているのがいい。賞はそれを狙っているわけだけれど、賞にはさまざまの副作用があるので(アドラー心理学を勉強している人は、賞の悪い副作用をすくなくとも4つあげてください)使いたくない。そこで、子ども自身の進歩に注目する。「今日はどんなことが学べましたか?」とか、「以前に較べて進歩したところは?」とか質問して、成長を一緒に喜べばいい。勉強して子どもが賢くなることを親が喜ぶと、「まわりの人を幸福にすると自分も幸福になる」という実感を子どもが持てる。

 「じゃあ、間違ったところはどうするのよ」と質問が来そうだが、優しく教えればいい。同じ所を何度も間違うこともあるけれど、「さっき教えたでしょ!」などと言って腹を立てると、子どもは勉強が嫌いになって、かえって逆効果だ。人間は同じ間違いを繰り返すものなんですよ。ご自分だってそうでしょう? 根気よく教えれば、かならず正しく解けるようになります。子どもは促成栽培できないんです。そうして、解けるようになったときに、「前は解けなかったのに、解けるようになったねえ」と、子どもと一緒に喜ぶことです。

 しかし、もっとも本質的なことは、昨日も書いたように、勉強の先に未来の幸福が待っていることを子どもが確信できるようにすることだ。しかも、その未来の幸福というのは、「自分の得になる」ということではなくて、「世のため人のために役に立てる人間になる」ということだ。それが人間にとってもっともワクワクできるイメージなのだ。ある知人のブログによると、子どもに、「大きくなったら何になりたい?」と尋ねたら、「仮面ライダー」と答えたんだそうだ。そこで、「仮面ライダーはどんなことをしてるの?」と尋ねたら、「みんなを助けてるの」と答えたんだという。それ見なさい、人は人を助けるのが好きなんだ。そういう未来像を子どもに与え続けることができれば、子どもは勉強が好きになるし、それを与えることができなくて、「勉強して何になるんだ」と思わせてしまうと、勉強が嫌いになる。

 これと同じ原理が、後片づけにでも、生活習慣の確立にでも、健康管理にでも、何にでも使える。アドラー心理学のいいところは、シンプルな原理があらゆる局面で使えることだ。子どもを勇気づけて育てるためには、「しなければならない」行為を楽しくする工夫がたくさん必要だ。そのためにはまず、親自身が「しなければならない」行為を楽しく行う工夫をしなければならない。自分が人生を楽しんでいなければ、子どもに楽しい人生を与えることはできない。しかして、人生の最大の楽しみは、まわりの人を幸福にすることの中にある。