「横の関係」という日本でよく使われる言い方ではなくて、「横の平面」と書いたのは、この概念を言いはじめたリディア・ジッヒャーは horizontal plane / vertical plane と書いていたからだ。それを日本語にするときに私が「横の関係/縦の関係」と訳した。岸見氏を批判している非アドレリアンのある人が「縦の関係/横の関係という言葉は、アドラーの文献の中に見つからない」と指摘していた。よく勉強しておられることは尊敬するが、これはアドラー自身ではなくて、ジッヒャー女史の提唱だ。文献を示すなら、Davidson, A. K. ed.: "The Collected Works of Lydia Sicher: An Adlerian Perspective" だ。不思議なことに、岸見氏は、ジッヒャーの名前を出さずに、まるでアドラーの提唱であるかのように、この概念を説明しておられる。ジッヒャーのこの本を岸見氏が読んで解説しておられるのをむかし見たことがあるので(ひょっとすると私がこの本を岸見氏に紹介したのかもしれない)、故意に出典を明記しておられないのだと思う。岸見氏の書き方は、なにもかもアドラー自身(かあるいはソクラテス)に由来するかのように語る特徴がある。アドラーと岸見氏の間には(私を含めて)多くの先輩たちがいるんですよ。
何度も書いているけれど、たとえ一般書を書く場合でも、出典を明記するのは学者の基本的なマナーだ。私がはじめてアドラー心理学を勉強したときの読んだのは、Ariety, S.: ed.: "American Handbook of Psychiatry" の中のアンスバッハーの論文だが、さいわいこれは PDF 化されているので、こちらに掲載しておく。英語がイヤじゃない人は、ぜひ読んでください。ものすごくよく書けている。最後の部分を見ていただきたいのだけれど、膨大な文献リストがついている。この中で、手に入るものを片っ端から読んで、それから留学した。文献リストは、伊達についているわけではなくて、それを手がかりに系譜を遡れるようにつけてある。