野田俊作の補正項
             


現実的であること(2)

2017年07月03日(月)


本日の読書
 お医者さんの日だったが、漢方医学でいう「水毒」で、なんとなく全身の具合が悪い、胃もたれがあるし、膝がなんとなく痛いし、下腿がダルい。患者さんにもそういう人が多くて、「梅雨時はしょうがないです。もうちょっとすると自然に治りますから」と言っているが、自分に向かっても言っている。

 アドラー心理学は、非現実的な仮想的目標が問題を引き起こすので、理性でもって点検して、現実的な目標に設定しなおすべきだと考えている。これはあたかも、ヘーゲルの「理性的なものだけが現実的である」という言葉を実践しているかのように見えるのだが、実はそうではない。ヘーゲルが言っているのは「観察可能なものは現実的でなく、理念的なものだけが現実的なのだ」という意味だ。ヘーゲルはプラトン風の観念論者で、理性の中に理想の世界秩序があって、それは「現実的」であるが、五感で観察できる世界は混乱に満ちていて「非現実的」であると考えていた。アドラーはこれには賛成しないだろうし、私も賛成しない。この混沌とした世界を離れて、それとは別に「現実的」なものが存在するわけではない。

 それはそうなのだが、個人の行動はしばしば世界の現実を無視して観念的な理想に向かっていて、それで問題を引き起こす。だから、観念的な理想である《仮想的目標》を言語化してみて、それを理性でもって点検して、現実世界で実現可能であるという意味での《現実的》なものに置き換えたいと考えている。

 東京都議会議員の選挙が終わって、小池百合子氏が率いる政党が圧勝して、その後どういうわけか小池氏は党首を辞任して、野田数氏という人が党首になったのだそうだ。この人について以下のような記事を見つけた。

 野田氏は「東京維新の会」時代の2012年10月に『「日本国憲法」(占領憲法)と「皇室典範」(占領典範)に関する請願』を都議会に提出している。これは現行憲法を無効として戦前の大日本帝国憲法の復活を求めるという請願だ。「国民主権」を「傲慢な思想」と断じて「直ちに放棄」すべきという主張には、憲法改正を目指す勢力も膝を打つに違いない。この請願は反対多数で採択を免れ、維新の会の橋本代表にも「ありえない」と不快感を示され、連携も停止となった。(『デイリー新潮』インターネット版 7月3日付)

 野田氏は、観念的であって現実的でないと、私は思う。私自身も『日本国憲法』は廃止して、新しい自主憲法を決めるべきであると思っているし、「国民主権」という法哲学的に奇妙な思想も再検討すべきであるとは思っているが、いますぐにそれができるとは思っていない。二階に上がるには、梯子をかけて、一段ずつ昇るしかない。1)実現可能な目標に向かって、2)効果的な方法を段階的に続けて行くことが、「現実的である」ということの意味だ。

 学校教育は、もはや現実的でなくなっている。すべての子どもにすべての勉強をさせるなんて無理だ。先日、ナメクジ駆除の記事を FaceBook 上で見つけて、それを写真入りでシェアしたら、秘書が「なぜあんな気持ち悪い写真をシェアするのよ」と気分を悪くした。「ナメクジ、かわいいじゃないですか」と言っても、許してくれない。ちなみに、記事の内容は以下のようだ。

 庭にナメクジが出るときは、植木の周りに松の葉を並べてみましょう。ナメクジは松の葉の匂いが苦手なようで、避けながら這ってこようとしますが、とげのような松の葉を越えることはなかなかできないでしょう。または、ビールを器に入れて植木の近くに置いておくのも効果があります。ビールの匂いはナメクジをおびき寄せ、やがてビールの中に沈んで溺れていきます。この方法は、特にナメクジの数が爆発的に増加する春ごろに最も有効なワザといえるでしょう。ナメクジを根本から退治したいと考えるなら、庭にカタツムリを放すのがいいでしょう。カタツムリはナメクジの卵を食べ尽くしてくれます。ちなみに、ナメクジは1つの植物を食べつくしてしまうのに対し、カタツムリはあちこちの植物を少しずつかじるように食べていきます。

 カタツムリの話をしたら、秘書はいっそう機嫌を悪くして、「ナメクジもカタツムリも変わりません」と言う。そうかなあ、カタツムリはもっとかわいいんだけど。

 というわけで、ある子どもが喜んで学びたくなることを、別の子どもは学ぼうとしない。その話を高知のベテランの小学校の先生にしたら、まったくそのとおりだと合意してくれた。だから、「すべての子どもがすべての科目を好きになる」というのは非現実的な目標だ。これだけでなく、学校が掲げるたくさんの目標が「戦争をなくそう」と同じくらい非現実的なので、実現が不可能なのだ。

 問題のナメクジの写真を掲載しておく。好きな人もいるし嫌いな人もいるだろう。それが現実だ。