歩き遍路

井原文子

今回のお遍路は、先達の野田先生に、ヨランタ、ナラを加えて総勢12名でした。

歩き遍路は良いものです。町中を歩くのもよし、山の中を歩くのもよし、どこまでも、高い空がつづいています。自分に背負いきれるだけの荷物を背負い、自分の足で、ただ歩きます。

でもひとりで歩くのではありません。

お遍路宿で、どちらから?と聞かれるたびに、大阪です・・・と答えながら、こころの中では、近くは地元徳島から、遠くはラトヴィアまで・・・と思い出し、このメンバーの多彩さにあらためて不思議な縁を感じました。

それぞれがそれぞれにできることを、自然に行っていました。みんなが疲れたとき、絶妙のタイミングで甘いものを配ってくれる人。お接待でいただいたみかんを、みんなのために運んでくれる人。今夜のお風呂に浮かべようと、柚子を摘んでくれた人。足をいためた人に手を貸していっしょに歩く人。ペースをつくる人。しんがりを守る人。

登山がはじめてのナラは、急な登りで何度も休みたがりました。主張ができるのは、すばらしいストレンクスです。立ち上がるときは、ヨランタに甘えて、ひっぱり起こしてもらっていました。

なんといってもまだ14歳。うちの子が14歳のとき、もし一緒に来ていたら、どうだったろう? もっと文句を言っているのじゃないかしら。

山上についてしばらくしたとき、たまたまひとりでいたナラに「大丈夫?」と聞いたら 「ごめんなさい、私に合わせてもらって。アヤコさんこそ大丈夫?みんな大変だったろうに、ほんとにごめんなさい」と、一生懸命に謝ってきました。ふたたび、うちの子が14歳だったら、と思いました。こんなにちゃんと謝れるでしょうか。

「大丈夫よ!へとへとだけど。ナラのおかげで休憩できて助かった!」
「きのうの晩だって、先に寝ちゃってごめんなさい。疲れてたけど、そんな死にそうだったというわけじゃなかったの。ただ・・・」
「いいのよ。夜中すごい雨だったね」
「そう!夜中に目がさめて音を聞いていたわ。早くに寝たから、目がさめちゃったの。いつもは夜中眠っているし、音楽聴いてたりするから、真っ暗な中で雨の音を聞くのは、なんだか初めてで、とってもおもしろかったわ」

ナラにしたら、ちっともフィットしない同行二人の傘を頭にかぶせられ、なんだか邪魔になる金剛杖を持って山道を歩かされ、あげくひとことも理解できない般若心経を唱えるおばさんたちをただ眺めているわけで、いや、お付き合いごくろうさま、としか言いようがありません。

でもナラは、自分に興味のあることをちゃんと見つけて楽しんでいるんだなぁ〜。これもすごい能力です。そしてそれを、ちゃんと私に伝えてくれるありがたさ。

3日目は、ひとつ急な峠を越えたあと、美しい竹林を通り、22番平等寺にお詣りしました。何かのお祭りがあったのでしょうか、五色の旗の翻る美しいお寺でした。

そして無人駅でお遍路装束を解き、みんなふつうの人の姿に戻りました。鈍行列車で徳島へむかう中、ゆっくりと、お大師さまの世界から、日常世界へ還っていきました。

夢のような、いい旅でした。